ステンレスケトル / 柳 宗理


もう10年以上付き合っている、うちの働き者のケトルは、柳宗理氏デザインのつや消しのステンレスケトルです。
特別な手入れなどはほとんどしていませんが、汚れが目立ってきたら、スポンジで磨くとまるで新品のようにピカピカになります。一度、うっかり誤って空焚きしてしまい、ケトルの底が少し虹色に変色してしまいました。慌てて製品ケア情報を見てみると「半分~七分程度の水にお酢を大さじ2〜3杯入れ、火にかけて温める。その後中性洗剤で洗う。」と書いてありました。また、美しくなるんだと安心した覚えがあります。そして、時々、気付くと無心でケトルを磨いていることがあります。傍で見るとちょっと怖い光景ですね。でも、そうしたくなるくらい本当に可愛いんです。今回は、そんなずっと大切にしている「ステンレスケトル」をご紹介します。

  

 手に触れる道具 ということ。

  
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全体が柔らかい曲線でつくられていて、直線であることを目で認識できる強い線は見当たらない。丸っこい本体に注ぎ口。ハンドルと把手の優雅にも見える曲線、ふたと本体が接するキワのふくらみ。目に入るすべての線が曲線であるように見せながら、美しくきちんと閉じる精巧なつくりのふた。ハンドルを握ったとき、ふたのつまみを掴んだときの柔らかさ。つまみの付け根には、指が直接ステンレス部分に当たらないように配慮されている。

  

どこを触れても やさしい。

 

 

  

 早く沸くための工夫。

  
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たくさんの曲線でつくられたケトル。唯一の直線らしき部分である、底面。あらゆる熱源に対応しながらも、IHへの対応のために接地面を大きくとって、熱伝導の効率化が考えられている。

  

対応熱源:
ガス
IH
シーズーヒーター
エンクロヒーター
ハロゲンヒーター
ラジエントヒーター

  

 注ぐ。

  
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2.5ℓのお湯の入ったケトル。   
女性にとって、それを片手で持ち上げて狙ったところへ正確に注ぐというのは、力のいる動作である。しかし、一度にたくさんのお湯を沸かしたい。このケトルは、そんな相反する要望を叶えてくれている。本体の幅いっぱいに広くとられたハンドルは、ケトルの重さを手のひら全体に伝えることで、力を効率よく使って安全に持ち上げることができる。注ぎ口は底面に向かって大きく取り付けられ、先に向かって緩やかに細くなっている。取り付け部分を本体の高さいっぱいに広げることで、ケトルを傾けたときに最後の一滴までスムーズに注ぐことができるのだろう。そして、何かをやさしく差し出すような形の先端は、勢いよく大量のお湯を注ぐことと、コーヒーをドリップするときのように細く美しくゆっくりと注ぐことの、両方を叶えてくれる。

  

 たたずまい。立ち姿。

  
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いくつもの機能を兼ね備えたケトルは、キッチンにいるときのたたずまいも美しい。置かれる場所を選ばず、どんな空間にも自然に溶け込み、空間を温かく見守るような立ち姿。

  

無駄がなく ただ美しい。

  

 ずっと大切にしたい。

  
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愛着を持って使う道具は、壊れてしまったらとても悲しい気持ちになります。しかし、何年も使ったその先の気持ちを見透かしたように、このケトルは、製品のケアや修理・交換までできるよう配慮されています。本体の素材であるステンレス18-8は、鉄に18%のクロム+8%のニッケルを添加した金属で、非常に頑丈にできていて壊れにくく、錆びにくく、手入れが簡単です。ある程度の汚れは、製品ケア情報を参考に自身で簡単に対処でき、万が一焦がしてしまった場合でも、焼け取り、汚れ落としを依頼することが可能で、壊れてしまった場合でも、ハンドルの交換や部品の交換が可能です。いつまでも、ずっと大切に使うことができるのです。

 

 

  
DATE                                        
■サイズ :縦244X横190X高さ205mm(取手含)
■重量 :815g
■満水容量 :2.5L
■材質 :本体側板・蓋/ ステンレス鋼(クローム18%・ニッケル8%)
本体底板/ ステンレス鋼(クローム18%・Nb)
取手/ フェノール樹脂
  
  


  
  
  

柳 宗理

  
     

| インダストリアルデザイナー プロダクトデザイナー 1915/6/29 - 2011/12/25

  
1957年「バタフライ・スツール」が「第11回ミラノトリエンナーレ」で世界的な評価を受け、工業デザインの巨匠となった。美術学校時代は油絵を学び、その後、フランスの建築家 ル・コルビュジエやシャルロット・ぺリアンに影響を受けて、家具や食器・カトラリーなどのデザインを手掛ける。日本の伝統美をモダンに解釈したスタイルで、照明器具やレコードプレーヤー、東京五輪の聖火ホルダー、地下鉄のベンチなど、多岐にわたりデザインを手がけた。シンプルで美しいフォルムと機能性を兼ね備えたデザインで知られる氏は、日本の戦後の工業デザインの礎を築いたひとりである。代表作とされる「バタフライ・スツール」は、ニューヨーク近代美術館に収蔵されている。

中村 ミカ
中村 ミカ

企業OLを経て1990年から内装会社コーディネート部門にて多くのハウジングメーカーのインテリアデザインに携わり、1997年からフリーランスとして活動。 2005年「深川の家」で初めて建築家 平田欽也氏と出会い感銘を受ける。その後いくつかの作品に携わりながら、経験を積む。主に「尾道の家」「井口の家」など。 2016年よりASTASメンバーとして参加。